ズッパ・イングレーゼの歴史的背景と誕生のストーリー
ズッパ・イングレーゼは、その名の通り「イギリス風のスープ」という意味を持つイタリアの伝統的なデザートです。しかし、実際にはスープではなく、リキュール(主にアルケルメスやラム酒)を染み込ませたスポンジケーキやビスケットと、カスタードクリームを層にしたデザートで、イギリスのトライフルに非常によく似ています。
その誕生にはいくつかの説がありますが、どれもイギリスのデザートとの関連性を示唆しています。
- エミリア・ロマーニャ説: 最も有力な説の一つは、16世紀のルネサンス期に、エミリア・ロマーニャ州のフェラーラ公国の宮廷で生まれたというものです。当時の貴族たちは、イギリスのデザート、特にトライフルに魅了されていました。フェラーラ公爵夫人のために、地元のパティシエがトライフルを模倣して作ったのが始まりとされています。イギリスのデザートを真似たことから、「イギリス風のスープ」と名付けられたと言われています。この説では、特に外交官や旅行者が持ち帰ったレシピやアイデアが基になったと考えられています。
- フィレンツェ(トスカーナ)説: もう一つの説は、19世紀にフィレンツェのレストラン「ドン・ソルダーノ」で、イギリス人観光客向けに考案されたというものです。このレストランのシェフが、イギリスのプディングに着想を得て、イタリア風にアレンジしたデザートとしてズッパ・イングレーゼを作ったとされています。
- ナポリ説: ナポリにもズッパ・イングレーゼのバリエーションが存在することから、南イタリアで生まれたという説もあります。ただし、やはりイギリスのプリンやトライフルからの影響は避けられないとされています。
共通の要素と特徴:
- イギリスのトライフルからの影響: どの説においても、イギリスのトライフルやプディングがズッパ・イングレーゼのインスピレーション源であるという点は共通しています。トライフルは、スポンジケーキ、カスタード、フルーツ、ゼリーなどを層にしたイギリスの伝統的なデザートです。
- リキュールの使用: ズッパ・イングレーゼの特徴は、アルケルメス(Alchermes)という鮮やかな赤いハーブ系リキュールが使われることです。これにより、ケーキが美しい赤色に染まり、独特の風味を加えます。アルケルメスが手に入りにくい場合は、ラム酒やブランデー、マラスキーノなども代用されます。
- カスタードクリーム: ディプロマットクリーム(カスタードクリームと生クリームを合わせたもの)や、シンプルなカスタードクリームが使われます。多くの場合、カスタードクリームは、卵黄を多く使った濃厚なタイプが用いられます。
- 層状の構造: スポンジケーキやビスケット、クリームが交互に重ねられるのが特徴です。
ズッパ・イングレーゼは、イタリア各地、特に中部イタリア(エミリア・ロマーニャ州、トスカーナ州、ラツィオ州など)で親しまれており、家庭の味としても、レストランのデザートとしても愛されています。見た目も華やかで、パーティーなどでも人気のデザートです。
ズッパ・イングレーゼのレシピ
ズッパ・イングレーゼは、基本のカスタードクリームとリキュールを染み込ませたスポンジケーキを重ねることで作られます。ここでは、比較的作りやすいレシピをご紹介します。
材料(約4〜6人分)
A. スポンジケーキ部分
- 市販のプレーンスポンジケーキ(5号または15cm丸型): 1台 または カステラ: 200g程度
- またはフィンガービスケット(サヴォイアルディ): 適量
B. シロップ
- 水: 100ml
- 砂糖: 50g
- アルケルメス(Alchermes): 50ml(手に入らなければ、ラム酒、ブランデー、マラスキーノなどで代用可能)
C. カスタードクリーム
- 卵黄: 4個分
- 砂糖: 80g
- 薄力粉: 30g
- 牛乳: 400ml
- バニラエッセンス: 少々
D. デコレーション(お好みで)
- 生クリーム: 100ml
- 砂糖: 大さじ1
- ココアパウダー、チョコレートチップ、チェリーなど
準備
- スポンジケーキを1〜1.5cm厚さにスライスするか、または適当な大きさにカットしておく。
- シロップを作る: 鍋に水と砂糖を入れて火にかけ、砂糖が溶けたら火を止めて冷ます。冷めたらアルケルメス(または代用リキュール)を加えて混ぜる。
作り方
- カスタードクリームを作る:
- ボウルに卵黄と砂糖を入れ、白っぽくもったりとするまで泡立て器でよく混ぜる。
- 薄力粉をふるい入れ、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
- 別の鍋に牛乳を入れて弱火にかけ、沸騰直前まで温める。
- 温めた牛乳を、卵黄のボウルに少量ずつ加えながら、その都度泡立て器でよく混ぜる(卵黄が固まらないように注意)。
- 牛乳を全て加えたら、一度濾し器で濾すとより滑らかになる。
- 混合物を鍋に戻し、弱火にかける。木べらなどで鍋底を絶えずかき混ぜながら、とろみがつくまで加熱する。
- とろみがついたら火から下ろし、バニラエッセンスを加えて混ぜる。表面にラップを密着させて、粗熱が取れたら冷蔵庫でしっかりと冷やす。
- 組み立てる:
- 深めのガラスボウルや透明な器、または個別のカップを用意する。
- スライスしたスポンジケーキ(またはカステラ、フィンガービスケット)をシロップに浸し、器の底に隙間なく敷き詰める。アルケルメスを使う場合は、ケーキが鮮やかな赤色に染まります。
- その上から、冷やしておいたカスタードクリームの半量を均一に広げる。
- 再びシロップに浸したスポンジケーキを重ね、残りのカスタードクリームを乗せる。
- もう一層、シロップに浸したスポンジケーキを重ねる。
- 全体をラップで覆い、冷蔵庫で最低2〜3時間、できれば一晩しっかりと冷やし固める。
- デコレーション(お好みで):
- 食べる直前に、生クリームに砂糖を加えて泡立て、ケーキの上にデコレーションする。
- ココアパウダーを振ったり、チョコレートチップ、または赤いチェリーなどを飾ると、見た目も華やかになります。
ポイント
- リキュール: アルケルメスは独特の風味と色を与えます。手に入らなければラム酒が一般的ですが、マラスキーノ(チェリーリキュール)もおすすめです。
- カスタードクリーム: 焦がさないように、弱火で絶えず混ぜながら加熱することが重要です。冷やすとさらに固まるので、少し緩めかな?くらいで火から下ろしても大丈夫です。
- 冷やす時間: しっかり冷やすことで、味がなじみ、ケーキが安定します。急ぐ場合は冷凍庫で一時的に冷やしても良いですが、冷蔵庫でゆっくり冷やすのが理想的です。
- スポンジケーキ: ビスケット(サヴォイアルディ)を使うと、より手軽に作れます。
ズッパ・イングレーゼは、見た目も美しく、様々な食感が楽しめるデザートです。ぜひご家庭で本場の味を試してみてください。